渋い炭色の格子戸。あどけない瞳でこちらを見上げる信楽焼のタヌキ。木肌の感触を思わず確かめたくなる年代物の臼。
 川湯温泉街、クッシー通り沿いにある源平は、その佇まいが懐かしく美しい。
 ご当地出身の店主、井出雄策さんは東京の大学卒業後、児童相談所の勤務を経て28年前にUターンした。ご両親経営の同店を引き継いで26年になる。伴侶の道江さんは大学の同級生で、彼女も又、養護施設勤めの後、嫁いできた。穏やかな語り口のご主人と、笑顔を振りまく明るい奥さん。素敵なコンビネーションのお二人に共通して感じるのは、人情だ。トリマーの傍ら、仕込みから両親を手伝う長女の遥さんが、そんなお二人の横で微笑んでいる。
 年4回は顔を見せる東京の常連客をはじめ、源平お目当てに全国からやって来るリピーター客は少なくない。
 200年はゆうに越えるという古材を運び込んで昨年末に改装された店内は、古民家の居間をそのまま移築したかのよう。すっくと立つ杉柱、太い梁、一枚板のカウンター。もの言わぬ木の温もりに心の芯が暖かくなる。
「群馬県甘楽(かんら)町にある妻の実家へ取りに行ったんですよ。江戸時代の造り酒屋で使われていた木材を使って昭和初期に建てた家を取り壊すことになって、譲り受けました」(ご主人)。地元『ラックル民芸』作の看板と調味料を並べた卓上盆が、スパイスみたいに効いている。ボックス席の間に置かれた木彫りのドラエモンがまた、いい。外看板に書かれた文字「いなか家 源平」や店内の壁に貼られたお品書きは、すべて先代の手によるもの。味わい深い達筆が、お店の雰囲気にしっくりと馴染んでいる。
 地場産の旬の食材にこだわる。看板メニューの一つ「げんころ(源平コロッケ)」は、猪狩農場(川湯)のキタアカリのみ使用。毎日手作りされる(2個500円)。厚岸湾で丁寧に育まれた「竹中さん家の牡蠣」は、牡蠣は苦手と話す女性客を虜にしてしまった(生・焼き・酢いずれも3ヶ945円)。初夏には、お隣り小清水町のグリーンアスパラが食べ頃。契約農家に買い付けに行く。天ぷらがオススメと聞いた(650円)。
 数少ない休日には、夫婦で温泉巡りを愉しむ。お気に入りを尋ねると、鹿追町の七福の湯(かんの温泉)を勧められた。「源泉かけ流しの湯は、湯上がりが違うね。長湯しても、スッキリと疲れがとれて気持ちがいいよ」。
 当たり前と思っていた川湯の良さを最近つくづく感じるというご主人は、今年7月中旬に開催する初の企画『川湯温泉 源泉まつり』の実行委員長になった。町おこしに燃える人々も夜ごとに集う。地元の味と文化、そして何より人々に触れられる観光スポットと呼びたい居酒屋だ。
川上郡弟子屈町川湯温泉
TEL01548-3-3338 営業時間/午後6時〜午前1時(第1、第3月曜日休)
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