標茶駅のほど近く、国道が交差する十字路の一角にコーヒーショップ『ぽけっと』はある。
オーナーの和田山麻美さんが、このお店を開いたのは23年前。22歳の若さだった。
「地元で仲間たちが気軽に集まれる場所があるといいなと思ったんです。接客業の経験もないのに、気持ちだけで走り始めました。若いからできたんでしょうね」と、懐かしそうに開店のいきさつを話す。こんな出来事もあった。
 それはオープン初日、第1号のお客様に水を運んだときのことだ。
 緊張して手の震えが止まらない。小刻みにグラスを揺らしながら、おぼつかない手つきでテーブルに置くと
「その気持ち、忘れないでくださいね」と、優しく声を掛けられた。
「今でも鮮明に覚えています。しかも、その方は妊婦さんでしたから二重にありがたい気持ちで胸が熱くなりました。幸運なスタートを切らせていただいたと感謝しています」。
 結婚後の20年間は、目の回るような忙しさだった。3児に恵まれて子育てに追われ、並行して、体調を崩したお父さんの介護も10年間務めた。でも、和田山さんはお店を閉じようと思ったことは一度もないと言う。
「全国から訪れるお客さんと会話していると、まるで旅行しているような気分になれるんです。お店が大変というより、お店に助けられてここまでやって来られたんですね、きっと」。これまでを振り返って語りながら、和田山さんは幾度も「感謝」という言葉を口にした。お父さんを介護した経験も、「最後の最後まで、身をもって色んな事を教えてくれた。こんなありがたいことはなかったです」と、しみじみ話した。
 標茶町で生まれ育った。稼業は、商店。喫茶店はその隣りに棟続きで立っている。薪炭、タバコ、そしてコーヒー豆を挽き売りする山崎薪炭店は今、亡父の後を引き継いで和田山さんのご主人が経営している。
 喫茶店と扉でつながる商店を覗いてみた。タバコやコーヒー豆のほかに、フラワーアレンジメントに炭を組み合わせた「炭の華」(1800円〜)や手作りの布小物や帽子、生活雑貨の数々がずらりと並んでいる。棚を彩るこれらの品々は、ぽけっと開店当初、一緒に切り盛りしていた妹さんが帯広で仲間たちと始めたオリジナルブランド『ms’mama』のもの。今は離れて暮らす妹さんとの暖かい絆を感じる。
 ぽけっとへ行ったなら、メニューを隅から隅まで読んでみて欲しい。メルヘンあり、ロマンありの凝ったネーミングと、取り合わせがユニークなオリジナル料理の解説が親切に書かれている。それは、まるで1冊の料理本のような面白さだから。
 さらに、98年ESSE夕食ばんざい大賞でグランプリに輝き、テレビ番組でそのオリジナル料理を披露した腕前の持ち主なのだ。
 最後に、今後の夢を尋ねてみた。
「標茶町で採れる野菜を使って、スープを作りたいんです。尊敬する辰巳芳子さん(いのちのスープを提唱する料理研究家。著書多数。)のように、生まれてから命尽きるまで世代を問わず健康を支えられるスープを地元の大地に育まれた大根やジャガ芋、ホーレン草などで」。
 お店を開いたきっかけがそうだったように、和田山さんは人を楽しませることが根っから好きな、生まれつきのサービスウーマンに違いない。


標茶町川上2‐1
T015・485・2496
営業/午前10時〜午後7時(日曜休)
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