玄関上に掛けられた木製プレートに書かれた3つの言葉に、
この宿の魅力のすべてが凝縮されているように思う。
「コテージ」「田舎家」「グリーングラス」
 鬱蒼と繁る森に包まれ、突き抜ける高い空に向かって三角屋根を伸ばす一軒家。
一晩10名までしか泊まらない宿には、コテージに似た開放感が満ちている。
 自家製野菜、裏庭で採れる山菜、地物の魚貝や肉を使って出される手料理を囲む食堂。
吹き抜けにこだまする賑やかな会話が想像される雰囲気は、田舎家のくつろぎがある。
 そして、ここは、知床連山を望む大草原の中。まさしく、グリーングラス(草原)そのものだ。
 安田光枝さん、ご主人の高章さん、長男の敏章さん一家が、この地で開業したのは2000年8月。
 大阪府出身だが、初めての田舎暮らしではない。かねて「定年を迎えたら、田舎でのんびり暮らそう」と決めていたご夫妻は、9年前に縁あって飛騨高山へ移り住む。充実したセカンドライフを約2年で切り上げて、次の新天地を道東に求めたのは、敏章さんの夢をサポートするためだった。それでも、土地探しに同行してここを訪れたときに、「ここがいいって言ったのは私なんです。何かピンと来るものがあったんですよ」
 自然豊かな立地もさることながら、宿の中にいても白木の壁や床に囲まれて清々しい空気は変わらない。ゲストルームのカーテンやベッドカバーは、光枝さんと友人が手作りした。腰を下ろせるコーナーは、「子供連れの方に喜ばれると思って…」お母さんの視点が生きている。
 取材当日にご馳走してくださったボンゴレロッソの味が忘れられない。大粒の野付産あさりがおいしかった。
「地元のお魚屋さんが届けてくれる旬のものを使って洋風に仕上げます。山菜もフリッターにしたり、茹でて塩コショウとオリーブオイルで食べるとおいしいのよ」
料理担当は、光枝さんと敏章さん。敏章さんが作るパンは評判を呼び、注文販売や町内での移動販売も始まった。
「無添加で保存料ゼロ。すっぴんの味やね」と、気さくな関西弁で光枝さんは笑う。
 ヒマワリみたいな明るさで訪れる人を暖かくもてなす女性だが、3年前には原因不明の重い症状で起きあがれないほどだったことがある。
「低血圧、低体温、頭痛。喉も腫れ出してそれは辛かったんです。自宅で横になっているしか手だてがなくて…」
長く中学校の保健体育教師を務め、健康そのものと思っていた自分の体に何が起きているのか?知人の助言を受け、自身でも徹底的に調べて得た知識から、現在の溌剌とした姿を取り戻したという。シャンプーや石けん、洗剤を生分解されるものだけに変えたのもそのひとつ。
「人も自然の一部。環境を汚す物は人の体も壊してしまうと実感したんです。アトピー性皮膚炎の孫も随分よくなりましたよ」
 興味のある方は、尋ねてみてほしい。
「孫たちの将来のために、環境を少しでも汚さずに渡してやるのが私たち大人の役目だなと思うんです。知って欲しい、それだけですわ」真剣な表情で、そう語る。
 知床横断道路が開通すると、グリーングラスは日増しに忙しくなる。派手な宣伝をせずに7年目を迎えたが、全国から訪れるリピーターや口コミで広がったお客様の予約が後を絶たない。釧路の交響楽団もサマー合宿にやってくる。
 緑の中で聴く演奏会なんてステキでしょうね、と思いつきを話すと、
「本当に。今度、祐さん(標津町在住の楽団員)に話してみよう」朗らかな声が返ってきた。



標津町川北1470‐4(中標津空港より車で15分)
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