もしも、不思議の国のアリスが日本に生まれ育ったなら、こんな大人の女性になっていたのかもしれない。そんな空想をしていた。
 浅井紀子さんは、もちろん生粋の日本人。釧路出身の女性だ。社交下手だった性格もあってか、手作り上手な母と本好きな父の愛情と影響を受けて、少々空想癖のある、ものづくりの好きな少女時代を送った。
 21歳で結婚以来、43歳で「シュガーアートを習得しよう」と決意するまでは、二人のお子さんを育てながら、得意のケーキ作りを時々教える程度のほぼ専業主婦生活だった。ただし、彼女の器用さと想像力の豊かさがその頃から卓越していたであろうことは、想像に難くない。
 昨年の11月終わりに自宅アトリエを訪ねると、それは華やかで美しい3層5段重ねのウェディングケーキが、最終仕上げ段階にきていた。およそ3週間かけて一緒に作り上げたのは、浅井さんが主宰するシュガークラフト&ケーキ教室「スタジオA」の生徒、笠井千恵(旧姓、簑谷)さん。この素晴らしいケーキは、彼女の2日後の結婚式で披露されるものだと聞いた。
「教室を開いて10年になりますが、この大きさのウェディングケーキ制作は初めてです」(浅井さん)
 全長約89cm。直径40cm・高さ10cmから直径12cm・高さ6cmまで、真っ白なシュガーで包まれたホールケーキが5段に重ねられている。頂上には、新郎の名前をもじった「龍(ドラゴン)」の飾りボードが燦然と輝く。ハクチョウの置物、カトレアの花々など細部を飾る小物も、全てがシュガークラフト作品。手に取ると、その緻密な細工に、思わずため息が出てしまう。
「何か自分らしい形で、披露宴を彩りたかったんです。お越しいただいた皆さんの幸せを祈る気持ちも込めて…」新婦となる千恵さんの思いを、師弟二人三脚で結実させたケーキは、12月1日の会場で喝采を浴びたと、後日伺った。
 資格取得に至る道は、平坦ではなかった。日本にシュガーアートを広めた第一人者、橋上とき代さんが住む東京へ通う覚悟はできていた。連絡すると、「そんな遠くからでは大変でしょう」と、広尾(十勝)でケーキ店を営むパテシエ上田さんを紹介された。月1〜2回、1年半の広尾通い。朝1番の列車を乗り継いで、夕方まで懸命に教わった。その後、認定員資格取得のために東京へ。一度に3日間という、年4回の集中レッスンを2年続けた。あれから10年を過ぎたが、道内のシュガーアート有資格者は現在も4名しかいない。
 フルーツのぎっしり詰まったフルーツケーキを正確に作る技術と繊細極まるシュガークラフトの腕を磨くのは、容易なことではないのだと、浅井さんの作品の数々を拝見していてもよく分かる。
 シュガークラフトの魅力は「オリジナリティです」と、浅井さんは明言する。テクニックの基本はあるが、色やデザインは自由。「だから飽きることはありません」と、瞳がキラッと光った。
 四季折々の景色や動植物の色や形、物語をヒントに浮かぶイメージなど。書き留めておいたメモから彼女の作品たちは生まれてきた。妖精が、コロポックルのように蕗を傘にして目を閉じている。足元には、春を告げるフキノトウ。北の自然をデザインした唯一無二の浅井ワールドが広がっている。

 2年に1度の開催というスタジオA作品展が、今年5月22日頃に釧路市生涯学習センター1階市民展示ホールで予定されている。浅井さんは、それに向けて今、新たな作品づくりに取りかかっている。
「イタリアンカラーのビビッドな色使いのものと、逆に和テイストの渋いものを考えています。従来のシュガークラフトには見られなかった作品に、きっとなりますよ」イメージ画はもう頭の中に描かれているのだろう。話しながら遠くを見つめて微笑む表情が、わくわくしていた。
釧路市白樺台4−8−7
T0154−91−1888

◆自宅教室/月・金・土曜日
◆幸町教室/水曜日
◆受講料/月2回4500円(材料費別)
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