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 スエヒロ。釧路市中心部、末広と栄町にまたがるこの歓楽街には、新旧、大小のビルが乱立している。小野寺さんが一人で営む「めしや」は、釧路川にほど近い低いビルの1階にある。夕焼け色の赤提灯に、勘亭流のひらがな三文字。暖簾をくぐると、左手にカウンター4席、右手にテーブル8席のこじんまりした店内は一目で見渡せた。
 カウンターに立ちのぼる、おでん鍋の湯気の向こうから「いらっしゃいませ」の声。夕食の支度に余念のないお母さんが家族を出迎えるような、普通の暖かさを感じさせる。
 昨年4月。小野寺さんは、8年ぶりで「めしや」を再開した。調理師勤めを体調不良から辞して、決めた道だった。
「勤め先の味付けに染まった舌の感覚を戻すのに時間がかかりました。おでんを丸ごと捨てて作り直したこともあります」。
 二人のお子さんの成長を機に始めた最初の店のときから、食材の味を損なわない自然な調理法に心を砕いてきた。もちろん、合成調味料の類は一切使わない。子供達がアレルギー気味だったこともあって、食の安全には特に気を配る。
「毎晩、店を閉めたら、おでんの味を見ますけれど、つくづくと自然の味って美味しいなぁ、って思います」。
 ごろんとした人参がそのまま入ったおでん出汁は、まろやか。人参臭さは、みじんもない。すり身にマッシュポテトと黒ごまを練り込む自家製つみれは、ねっとりとして後を引く(2個1串300円)。行き着いた昆布は、日高産。出汁をひいて柔らかくなったところを結んでじっくりと煮込む。おでん種は、日ごとに入れ替えて常時20種類。1品150円〜300円。
 日替わりで用意されているご飯メニューがまた、どれも人気だ。宝石箱みたいな握りは、漬け物寿司。ミョウガは甘酢漬け、白菜は浅漬け、醤油と黒酢の沢庵など、ネタの味わいがそれぞれ違う。シャリには、白胡麻が入ってさらにヘルシー。
あっさりしたイカ飯、サツマイモ入りの炊込みご飯も「今日はないの」と、声がかかる。いつもあって、「締めはやっぱりコレだな」という常連客が多いのは、麦とろ飯。こちらも、万能だしを丁寧に合わせた薄味で山芋の風味を引き立てる。
麦とろ飯(550円)
 カウンターに並ぶ一品料理は、おふくろの味。肉じゃが、ニラ玉、鶏むね焼きの中華あん、豚もも肉の野菜巻きにカボチャ団子などなど。カロリー控えめな材料も、和洋中華と工夫して満足させてくれる。お腹周りが気になり始めたお父さん、野菜嫌いな子供達のために作るお料理上手なお母さんの愛情が、そのままお店のメニューになっているようだ。
釧路産はもシュウマイ(自家製)
〜旬に作りおきする定番品
(3ヶ450円)
牛タンの味噌漬(自家製)
〜合わせ味噌と黒粒胡椒を塗って5日以上寝かせ、食べる直前にさっと炙る。コク旨い。
(600円)
 午後5時半開店だが、手を抜かない女将さんの朝は早い。9時に買い出し、午後2時には仕込みにとりかかる。暖簾をしまうのは午前零時。片付けて、おでんの味をみて、ときにはそのまま試作品にとりかかることもある。「いま研究中なんですけど、どうですか?」と出されたのは、人参シャーベット。何度も茹でこぼしてミキサーにかけた自然の淡い色が美しい。ほうれん草のババロアも検討中とか。そろそろ、お品書きに加わっているかもしれない。
 睡眠時間を削っても、「やればやるほど奥が深いの。中途半端にはできないから」と、細腕で切盛りする毎日を送る。
 女将の性格そのままに、看板と提灯が通りからちょっと控えている。初めての人は、一度通り過ぎてしまうかもしれない。
 取材中に50代とおぼしき常連さんが届け物にきて、「よろしくね。でも、あんまり有名になるのも困るんだよなぁ」と、頭をかいて笑っていた。その気持ち、同感します。応援したい、でも隠れ家にしておきたい。そんな気にさせる、大切な心のよりどころなんですよね。どうぞ、その辺りを汲み取ってお訪ねください。一見さんも大歓迎の気さくなお店。12名で満員の小さなお店です。


釧路市栄町3−1
スエヒロエイトビル1階(T)0154−22−0001
営業/午後5時30分〜午後11時 月曜休
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