今年のゴールデンウィーク。こどもの日イベントが開かれた厚岸町の施設に中田さんはいた。
「木のおもちゃであそぼう」と書かれた部屋の中央で子ども達と組み木遊びに興じる姿は、優しいお母さんそのもの。積みあがるにつれて、崩さぬようにと真剣味を帯びていく少女の瞳とそれを見守る中田さんの暖かいまなざしが印象深い。
 部屋の天井に届きそうな火の見やぐら風の塔、イグルーみたいな窓付きの小屋だって出来る不思議な木片の数は、何と7000枚に上る。数年前に新聞で紹介された記事を参考にして、中田さんが1枚1枚ていねいに手作りしたものだ。さらに、子ども達のために作った木のおもちゃはまだまだあった。
 ご自宅の一室に案内されたとき、思わず「うわぁ」と歓声をあげてしまった。そこは、まるで子どもの国。幼い頃に夢見た、ままごとの部屋。一番驚いたのが、食器棚。幅70センチ×高さ1メートルほどのミニサイズながら、造りは本物だ。引き戸の中には、湯呑み茶碗にグラスに箸立て、たくさんの小皿も並んでいる。
下の扉の奥には、お鍋、まな板、包丁もある。引き出しを開くと、手縫いの布製コースターまで入っていた。戸を引き出しを、開くごとに心臓の鼓動が早打ちになっていく。
 さて、食器棚の前には、幼児なら3人は座れ
そうなちゃぶ台だ。かたわらのガスコンロには、やかんものっている。アイロン台とアイロンを見つけた時には、もう感動すら覚えていた(もちろんコースター以外は全て木製のおままごと道具)。この部屋に来て喜ばない女の子など想像できない。大人の私ですら興奮を抑えられなかったほど、ままごとの理想が詰まった部屋なのだから。
 中田さんの作品は、こうした昭和を彷彿とさせる懐かしいままごと道具だけにとどまらない。円卓テーブルとイスが4脚そろったダイニングセットは、ままごと用ながら大人が座ってもびくともしない。ままごと以外にも、ひな人形や鯉のぼり、クリスマスツリーなど季節のインテリア飾りもたくさん。木馬も人気だ。小人の楽団が楽器を弾く様子が愛らしいピアノ形のオルゴールは、音楽に合わせて鍵盤と小人が動く仕掛けから自分で考えた。流れるメロディは、サザンオールスターズの「TSUNAMI」。サザンが大好き、という若々しい感覚の持ち主でもある。
「不器用だから、木工を趣味になんて思いも寄らなかった」のが、仲間とともに勤務先だった保育所の子ども達のためにおもちゃを作ろう、と始まったのが13年前。保育所が閉じた今では、地域の子ども達向けの会を主宰して、一人で淡々と続けている。
「ライフワークが見つかって、本当に嬉しい」と、瑞々しい表情で笑う中田さん。「まだまだ作ってあげたい道具はあるの。毎年増やしていけたらいいなと思います」とも。彼女が主宰する「木のおもちゃであそぼう」は、5月と7月の2回、町内の施設で行われている。
 中田さんの工房は、『森の大工さん 厚岸町木工センター』だ。無論、誰でも使える公共施設で、彼女はここで週1日は職員として勤め、残り5日間は利用者として通う。「大小の工具を借りられて管理人の坪田さんが手ほどきしてくれる、とってもいい施設なんですよ」と、太鼓判を押してくれた。
 取材した日は、利用者の日。ただいま製作中の文机を持ち込み、華奢な体に似合わない大型のごつい工具を操作する。不安なときは、坪田さんに質問すれば助け舟を出してくれる。にっこり頷いて作業再開。十五夜の頃には、すすきとお団子が置かれて自宅の窓辺を彩っているのかもしれない。
 年齢を聞いて冗談と勘違いしたほど、色白で薄化粧の面立ちが初々しい。帰り際に挨拶すると、「取材なんて初めてなんです。いままで表にでるようなことは避けてきたのに…どうして受けたのか、分からないの」と、無邪気な表情で尋ねるように話していたことが思い出される。
 ご縁を感じていただけたのならありがたい。こちらこそ、妻として母として社会人として年齢を重ねながら、還暦まぢかにしてこんなにも透明感あふれる地元の先輩に出会えて励みになりました。
(厚岸町営)
森の大工さん 厚岸町木工センター
厚岸町山の手2丁目1番地
(国道44号線沿い)
 T0153−52−3451
【開館】  午前9時30分〜午後3時45分
(予約不要)・月曜休
※祝日の場合は翌日休み、年末年始
【利用料】 夏期(5月〜10月)1時間80円
冬期(11月〜4月)1時間100円
過去のえぷろんな人はこちら
今月のえぷろんな人にもどる